「僕にとっての美しいものはここかな、この草原…」
「草原?」
「うん。僕はここに立って一日中羊の番をしているんだ。だから様々な草原の表情を知ってる。」
「やわらかな春の風が、黄緑の草原の上に光の軌跡を残しながら滑るように走って行くんだ。まだよちよち歩きの時からここに立って見てる風景なんだけどね!」
そう言うと羊飼いはとても照れ臭そうにして、真っ白な犬の頭をそっと撫でました。

「たまに親父の用事で街に長い間行った時は、たまらなくなるよ。確かに街には色々なものがたくさんあって、楽しいこともあるけれどなぜか、すぐここに帰って来たくなるんだ」
羊飼いは、ぽん、と体を投げ出すように草の上に寝転がると、空をじっと見つめていました。


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